内部監視と山葵、

高級わさびの内部障害を光センサーで判別

 放射線による
わさび解析技術とは

診療放射線技師がわさび農家に

現在も神奈川県内の病院で、
診療放射線技師として働く飯田訓司さん。
わさび栽培に取り組むようになって、今年で4年目、
父の茂雄さんは、全国のわさび生産者が集う全国わさび生産者協議会の会長を務めた経歴

静岡県伊豆市の天城山の麓に約1haのわさび沢を保有し、1年を通して主に市場へ出荷。 1kgあたり数万円の値がつく最高級品種「真妻(まづま)種」のわさびを今は専門に栽培
家業が順調満帆に進んでいた2017年、兄が47歳の若さで急逝してしまう。
悲しむ暇もなく、訓司さんはその直後から父を手伝い、
放射線技師の仕事と兼業でわさび栽培を始めることになった。そして、兄が不在となった家業の窮地を救おうと、後を引き継ぐことを決心

障害を持ったわさび。内部に黒ずみが見られるが、外観からは判断が難しい

訓司さんのモチベーションを最も高めるきっかけとなったのが、障害である。内部が痛んでいるかどうかは見た目ではわからないことがある

墨入り病や軟腐病が原因。
この症状には、わさびを栽培する農家なら誰もが頭を悩ませている

医療界ではありえないと思いました。1本100円の人参や大根ならまだ諦めもつきますが、わさびはスーパーなどの店頭で1本1000円も2000円もするような超高級野菜です。お金をもらって納品する身としては、本当に胸が痛みまし不安に

もし内部の障害が画像診断で判断できれば、安心して消費者に届けられるはずです。品質が確実に保証されたわさびを、消費者との間をつないでくれる仲買人さんにしっかりと受け渡したい。そして、購入してくれた方をがっかりさせたくない。また、仲買人さんが苦情で困らないようにしたい

診療放射線技師という発想ややり方が実にユニークで、今後のわさび販売に大きな変革を起こすことになりそう

非破壊で内部障害を見分けたい
検査方法の模索に2年の月日

最初に行ったのは、
病院にある検査機器を使ったテスト。穴を空けたわさびと墨入りのわさびをレントゲンX線装置やCT装置、超音波エコー装置でテスト

結果は、空洞は判定できるが、墨入りは判定できない

非破壊検査装置を製造している6社にメールで相談
すると3社から返答があり、
和歌山県にある財団法人雑賀技術研究所は前向きに検討

光品質チェッカーを使ったわさび内部障害判定テストを開始。

組織変化を画像化できるMRIでも試してみたが、画像判定が難しかったため、最終的に光品質チェッカーによる数値化判定に落ち着く

そして2021年9月、雑賀技術研究所の光品質チェッカーを導入、
正式にわさびの内部障害の判定テストが始まった。
今後は、1月を目処にデータの収集・蓄積が終了し、その結果を確かめながら本格稼働させていく予定

光センサーによる色識別の機能で内部障害の判別

基本的に黒は光を吸収するという性質を利用して、近赤外線の光をわさびに照射し、透過する光量の差によって障害部分(黒色部分)の有無を判別するという仕組み

元々この機器は、糖度等の成分分析用に開発されたものだった。それなら、わさびの辛味成分を測ることも可能だろうと思いたいところだが、
辛味成分は、わさびをおろし金などですって空気に触れると発生するので、非破壊の状態では辛味の強弱は調べられない

腐食部分は糖度や水分量が違うと思われるため、今後成分分析の機能をいかした方法についても研究していく意義はあるだろう

今回の機器は、その成分分析の仕様(機能)を残したまま、色識別機能のみにすることで、内部の障害(変色)を発見することに特化した形になっている。
検査する対象物によって光量などは異なるため、現在わさびの内部検査に適した光量(障害を判別しやすい光量)を見つけだし、光量と実測値の照合を繰り返している

わさびの世界では初の試みなため、
障害判定の精度を上げていくために、バックグラウンドデータの収集が必要

内部障害の有無の判断は、
小さな障害判別が難しいが、
全体で7割程度の確率で判別できるところまではきた。
今後も検査データを蓄積し、
9割以上の確率に

内部検査による品質保証を強みに販売価格2割アップ

課題
現在、1本の測定にかかる作業時間は30秒ほど。
400本を出荷すると、作業時間は200分となる。

ベルトコンベア式の流れ作業にして測定時間を減らしたいが、わさびは表面がボコボコして曲がっている形状が多いため、1本ずつ測定器に入れての手動測定

検査結果は1本ずつ数値で表示される。障害の有無を判定する基準値は自分で設定でき、
25に設定。赤くマーキングされた数値が障害ありで、ブザーもなる仕掛け

測定器の導入価格

測定器の導入によって、市場で“内部検査による品質保証”を売りに商品への信頼度を高めることができるはず。
それにより、わさびの箱単価は全体として2割増しを狙える
仮に月10万円程度の収益アップが見込めれば、ほぼ周年栽培のわさびであれば5〜6年(60〜72カ月)ほどで元が取れると見込んでいる

現在、市場に出荷するわさびは2kg入りの箱にサイズをそろえて出荷するという(おおよそ1箱に10〜150本ほど)。1箱20本ほどの大きさのもの(1本100g程度)が一番高値という。競りで値段が決まるため、内部障害がないとわかれば、仲買人も通常より高い値段で引き取る

栽培する沢の場所や収穫時期によって違うものの、今までの外観による障害判定をすり抜け、光センサーで内部障害の見つかるわさびが、全体の2割ほどは出る可能性がある

その場合、それらは障害の程度に応じて、キズわさびとして障害部分を切り落とし出荷、または、加工用に回したりする(その場合の値段は5分の1ほど)。
良品としての出荷量は今より減ってしまう可能性が高いが、それでも、障害のないものを詰めた箱のものは、大きな信頼に裏付けられるため、その品質保証に見合った対価を得られることは間違いなく、そうしたロスを十分補ってなお余りある

光センサーによる内部検査はいろいろな可能性を秘めている
わさびに限らず他の農作物においても、内部の状態や品質について商品を傷つけることなく判断することは、商取引上の信頼度アップにつながるだけでなく、いろいろな理由から重要な意味をもつことになっている。

ニンジン加工会社では、同様の光センサーを使って透過度を測定し、芯の硬いものを事前に分別し、切断機の刃が壊れないようにしている

加工の現場でも内部検査の可能性は広っている。

消費者の賢い商品選択に役立つように、農産物についても品質や成分などが「数値」や「画像」などによって証明され、表示される時代に

検査を出荷、流通段階で取り組んでおけば、販売するスーパー・小売店にとっても、購入する消費者にとっても大きな利益となることは間違いない。

診療放射線技師の発想と技術をいかしたわさび農家・飯田訓司さんの挑戦は、これからも続く。

あの
わさびを処理していて
黒いのを見ると
ため息が出る
センサー技術革命
グリーンエムアンドジャパン株式会社。







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